檜山流霞    フォロー 59 フォロワー 34 投稿数 316

93年生。歴史小説とファンタジーと少しの不思議で育ちました。古典和歌と唐詩、蕪村が好きです。近代詩と現代詩はまずまず。前登志夫、岡野弘彦、高野公彦、永井陽子。(環さんへ。連作表示に対応予定とのこと、楽しみです。さらに詞書にも対応していただけると小躍りします。)随想録……https://kyogoku-korin.hatenablog.jp 未来紀野欄

連れてきてしまつたやうだちいちやんの影をこんなにとほいところへ 

いさかひの歸路の電車をゆつたりとりかゝられてもだしてゐたり 

現し世はどちらだつたか春眠のをはりのやうに空は剝がれて 

〈注文を確定します〉先の世で添ひ遂げたひとに気付く権利の 

あれもこれも喩であるのだと吠えたてる人がゐてそこにわれがゐたこと 

ブレーキがすこしこはれてごめんねと自轉車がいふ それを蹴飛ばす 

リッドであることそしてみづからであるゆゑの水のやうになることそしてみづからでありながらみづからを消すこと ──永井陽子みづからの刄毀れ 

こはれろ、といふひとすぢの蜜垂りて垂りてきてやがて聲となりにき 

雪融けのあとをきたなく降る雨の泥沙がつまり私であつた 

塗り替へるやうに言葉を紡ぐとき垂れ込めて來てあす雨もよ 

色といふ魔に犯されて窯變す〈性癖〉の語の移ろひあはれ 

ひとりしづかに火酒くわしゆ含むときふいに來るフタリシヅカといふ花の名は 

あれも黑、これも黑だと言ひたてておれがだれより黑くなつてた 

抱き合つてゐたかつただけ 耳もとでその聲を聽いてみたかつただけ 

向かふべき泉を知らぬ彗星の遮二無二落ちてなにもなかつた 

効率といふ語ととほく隔たりてへだたりてけふ往路は狹霧 

淀川のむかうに掛かる陽の紗幕 垂れ込めてゐる雲のすがしゑ 

葦根あしねふ浮き草なりし蓮の身の化けてのちフェンリルとなりにき 

圧力と言へば哀しも鍋底に殘る少しの米粒が 

猜疑してやつれ果てたる人の身を捨つれば呼ばふ狼のこゑ 

機械鎧オートメイルのなづきにおもふ侮蔑より生まるるもののひとつ 鬱憂 

ドス黒い思ひのゑがく稜線を越えて水平線を見にゆく 

腐心して翳りの多き裏路地に眺めてゐたるけふの夕焼け 

う狂へないね恩人の娶りしといふ知らせに 私の兄だつた/かつて私は弟だつた 

空振りでいいさ戰ふぐらゐなら僕らのうへに葉櫻が降る 

身體といふ牢獄の内側に響かふ歌の死に體となる 

気ぐらゐと気ぐるひの差をおもふとき矯められて立つ街路樹さやか 

夕暮れは鳩の友呼ぶこゑ凄くこもれるゆゑにわれら哀しゑ 

願はくはかくぞありたき夕暮れに檜の木の山を霞流らふ 

硏ぎたての刄物のやうだ。許されて、なほ安らかにならぬ心が。